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第33週で「どこで暗号を解くか」を見ました。その暗号を成立させる証明書には期限があり、誰かが更新し続けなければなりません。
まず結論
証明書の有効期間の上限を決めているのはRFCではなく、CA/Browser Forum という業界団体の Baseline Requirements です。そしてその上限は2026年3月に大幅に短縮されました。
「上限は398日」という広く流布した値は、現時点では古い値です。期限にまつわる数字は更新され続けるので、「いつ時点の値か」を確かめずに引用できません。
「公的に信頼されるTLSサーバ証明書の有効期間の上限は398日である」——この説明を評価してください。
当てることが目的ではありません。外した予測ほど記憶に残るので、直感で選んでください。
証明書には期限があり、誰かが更新し続ける
第33週で、暗号をどこで解くかを見ました。その暗号を成立させているのが証明書です。そして証明書には必ず期限があります。
期限が切れれば、利用者のブラウザは警告を出し、通信は事実上止まります。つまり証明書の運用とは、期限が来る前に新しいものへ置き換え続ける作業です。人手でやると忘れるので、自動化のプロトコルが作られました。それが ACME(RFC 8555) です。
ただし今週の主題は自動化そのものではなく、**「その数字はどの文書が、いつ時点で決めたのか」**です。この領域は数字が更新され続けるからです。
上限を決めているのはRFCではない
「証明書の有効期間の上限は何日か」を調べると、出典が3つの層に分かれていることが分かります。
文書 決めていることRFC 8555(ACME) 発行・更新を自動化する手順→ 有効期間は規定していないCA/Browser Forum 有効期間の上限Baseline Requirements → 業界団体の文書。RFCではない各CAの運用方針 実際に発行する期間(例: LE の既定90日。2026-09時点) → 上限より短く自分で選べる
よくある誤解が**「90日はACMEが決めている」です。RFC 8555 に有効期間の規定はありません。90日は Let's Encrypt という一つのCAの選択です。同社は理由を「鍵の漏洩と誤発行による被害を抑える」「自動化を促す」と説明し、「これらの理由から、当社は90日を超える有効期間の証明書を提供していない」と一人称で述べています(2015年の記事)。ただし90日は2026年9月時点**の既定です。同社は2025-12-02の告知で、既定を2027-02-10に64日、2028-02-16に45日へ短くすると発表しています。
「Let's Encrypt の証明書が90日なのは、ACME(RFC 8555)がそう定めているからだ」——この説明は正しいですか。
ACMEのチャレンジ — 何を証明しているのか
自動更新の中心にあるのがチャレンジです。CAは「あなたが本当にそのドメインを支配しているのか」を確かめる必要があり、その確かめ方が定義されています。
RFC 8555 の2つの定義文は、並べるときれいに対になります。
§8.3 HTTP Challenge特定の HTTP リソースをプロビジョニングさせることによりドメイン名の支配を証明する§8.4 DNS Challenge特定の DNS リソースをプロビジョニングさせることによりドメイン名の支配を証明する
証明している対象は同じです。どちらも「ドメイン名の支配」であって、片方が「サーバの所有」を証明しているわけではありません。違うのは、何を置かせるかだけです。
もう一つ注意すべき点があります。3つ目のチャレンジ tls-alpn-01 は、RFC 8555 に登場しません。 これは別文書 RFC 8737(2020年2月) が定義するもので、ALPN識別子 "acme-tls/1" を使います。「ACMEの話題だから8555だろう」という連想が、そのまま誤帰属になる例です。
ACMEの http-01 チャレンジと dns-01 チャレンジは、それぞれ何を証明するものですか。RFC 8555 の趣旨に即して選んでください。
証明書の更新(今週)
期限が来る前に新しい証明書へ置き換えます。Let's Encrypt はARIの指示での更新を第一に、予備として残り3分の1での更新を推奨し、90日証明書なら期限の30日前にあたると述べています。有効期間を短くする理由として同社が挙げるのは、鍵の漏洩と誤発行の被害を抑えることです。
有効期間 上限は BR が決める(短縮が進行中)実際の期間 各CAの方針(LE は2026-09時点で90日)更新時期 ARIの指示。予備に残り1/3 = LEの推奨
DNSレコードのTTL(第25週)
第25週で見たように、DNSの応答にはTTLが付き、その時間が過ぎるとキャッシュは権威サーバへ問い直します。TTLを短くすれば変更が早く行き渡りますが、問い合わせの回数は増えます。
有効期間 TTL(レコードごとに設定)取り直し TTL 経過後、権威サーバへ問い直す短くすると 変更が早く反映。問い合わせは増える
証明書の有効期間とDNSのTTL。この2つに共通する構造は何でしょうか。そして「期間を短くする」という判断は、どちらでも何と引き換えになっているでしょうか。
「期限が切れたら何が起きるか」と「期限を短くすると何が増えるか」を両方について考えてください。
この章のまとめ
- 有効期間の上限を決めているのはRFCではなく CA/Browser Forum の Baseline Requirements(業界団体の文書)。
- BR §6.3.2: 2026-03-15 以降の発行分は200日、2027-03-15 以降は100日、2029-03-15 以降は47日(施行日の一覧は §1.2.2)。
- 「398日」は現時点の上限ではない。 2026年3月に大幅短縮された。学習データに残りやすい古い値の代表例。
- RFC 8555 に有効期間の規定は無い。 Let's Encrypt の90日(2026年9月時点の既定。短縮が告知済み)はそのCA自身の方針(「当社は提供していない」という一人称)。
- 更新タイミングもRFCの規定ではない。 Let's Encrypt はARIの指示を第一に推奨し、「残り1/3(90日なら30日前)」はその予備。
- http-01 と dns-01 はどちらも「ドメイン名の支配」を証明する。 違いは何をプロビジョニングさせるか。
- tls-alpn-01 は RFC 8737。 RFC 8555 にこの語は登場しない。
自分の現場で確かめる
読んだだけでは身につきません。手元の環境で実際に見てみてください。
理解度チェック
読んだ直後は「分かった」と感じやすいものです。実際に解いて確かめてください。
証明書の有効期間の上限について、出典として正しい組み合わせはどれですか。
用語集(5語)
- CA/Browser Forum Baseline Requirements
- 公的に信頼されるTLSサーバ証明書の発行と管理について、CAとブラウザベンダが合意した業界団体の文書。RFCではない。有効期間の上限はここで決まる。
- Validity Period(有効期間)
- Baseline Requirements §1.6.1 の定義では「notBefore から notAfter まで(両端を含む)の期間」。証明書の中に書かれた2つの日時で決まる。
- ACME(RFC 8555)
- 証明書の発行・更新を自動化するプロトコル。ドメイン名の支配を証明するチャレンジの仕組みを定める。有効期間や更新タイミングは規定していない。
- http-01 / dns-01
- ACMEのチャレンジ。どちらも「ドメイン名の支配」を証明する。違いはHTTPリソースをプロビジョニングさせるか、DNSリソースをプロビジョニングさせるか。
- tls-alpn-01
- ALPN識別子 "acme-tls/1" を使うチャレンジ。定義は RFC 8737(2020年2月)であって RFC 8555 ではない。
出典(一次ソース)
- CA/Browser Forum Baseline Requirements §6.3.2 — 有効期間上限の規定(施行日の一覧は §1.2.2 Relevant Dates) ↗
- RFC 8555 §8.3 / §8.4 — http-01 と dns-01 の定義 ↗
- RFC 8737 — Automated Certificate Management Environment (ACME) TLS Application-Layer Protocol Negotiation (ALPN) Challenge Extension(tls-alpn-01) ↗
- Let's Encrypt「Why ninety-day lifetimes?」— 90日はCA自身の方針 ↗
- Let's Encrypt 統合ガイド — When to Renew(ARIが第一、予備として残り1/3での更新) ↗
- Let's Encrypt「Decreasing Certificate Lifetimes to 45 Days」(2025-12-02) ↗