- ブラウザURL入力
- DNS名前→IP
- ルータ経路選択
- ロードバランサ振り分け
- Nginx受け口
- アプリ処理今ここ
- DB保存
このコースでは、コードの外から付いてくる義務を扱います。最初は、アプリが書き出すログが法律の定義でどう分類されるかを読みます。
まず結論
個人情報保護法の定義は、氏名が書いてあるかではなく、その情報から特定の個人を識別できるか(他の情報と容易に照合して識別できる場合を含む)で線を引いています。
「番号だけなら個人情報ではない」も「番号があれば必ず個人情報」も原典にはありません。照合できるかは事業者の実態に即して個々に判断する、と書かれています。
本回は一次ソースが何を書いているかの紹介で、個別の事案の適否は判断しません。
会員番号と閲覧ページだけが並ぶアクセスログ(氏名もメールも無い)。個人情報保護法の定義と委員会のガイドラインは、これをどう扱っているでしょうか。
当てることが目的ではありません。外した予測ほど記憶に残るので、直感で選んでください。
定義は「名前があるか」ではなく「届くか」
アプリが毎日書き出すログのどれが「個人情報」なのか。条文の柱書から読みます。
この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
第1号は、氏名や生年月日などの記述等で特定の個人を識別できるもの。その末尾に括弧書きが付きます。
(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)
第2号は「個人識別符号が含まれるもの」です。個人識別符号(第2条第2項)は号の要件に当たる符号のうち 「政令で定めるもの」 に限られます。通則編が転記する政令第1条の列挙は身体の特徴の変換符号・旅券の番号・基礎年金番号・免許証の番号・住民票コード等で、自社の会員番号が一般にここに入るわけではありません。
つまり線は、情報単体に名前があるかではなく、他の情報と容易に照合して特定の個人を識別できるか で引かれています。通則編は「個人に関する情報」について「暗号化等によって秘匿化されているかどうかを問わない」とも書きます。
- ・条文は e-Gov の 2026-07-17 施行版。第1〜7項は 2028-12-23 施行の最終の未施行版まで同文
- ・2028-07-16 施行の改正(令和八年法律第五十六号)で第2条に第8項「連絡可能個人関連情報」が新設される
会員番号だけのアクセスログ
会員番号と閲覧ページだけのアクセスログを考えます。「容易に照合」を、通則編の注(※4)はこう説明します。
「他の情報と容易に照合することができ」るとは、事業者の実態に即して個々の事例ごとに判断されるべきであるが、通常の業務における一般的な方法で、他の情報と容易に照合することができる状態をいい、例えば、他の事業者への照会を要する場合等であって照合が困難な状態は、一般に、容易に照合することができない状態であると解される。
ログにあるもの 会員番号 / 時刻 / 閲覧ページ社内の別の表 会員番号 → 氏名・メール(会員DB)誰が引けるか サポート担当が管理画面で検索できる通常業務の手順か 問い合わせ対応で毎日使う
原典が見るのはログの列ではなく、強調した2行、照合先の表と、それを通常業務で引いているか です。どちらもコードには書かれていません。
時間でも動きます。通則編 2-1 の事例6は、取得後に情報が付加・照合されて識別できるようになれば「その時点で個人情報に該当する」とします。
「アクセスログから氏名とメールアドレスの列を消したので、このログはもう個人情報ではありません」という報告の扱いとして、原典に沿うのはどれですか。
個人情報でなくても、個人に関する情報は残る
どちらの号にも当たらなければ無関係、ではありません。第2条第7項です。
この法律において「個人関連情報」とは、生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないものをいう。
個人情報に当たらないことは、個人に関する情報でないことを意味しません。
EU の GDPR も第4条第1項で identified or identifiable natural person に関する情報と定義し、識別子の例に an online identifier を挙げます。前文(26)は識別の手段を either by the controller or by another person まで数えます。他の事業者への照会を要する場合を一般に「容易に照合」できない例とする通則編の注(※4)とは、書き方が違います。どちらの法が適用されるかは扱いません。
Cookie の識別子で集めた閲覧履歴
通則編 2-8 は【個人関連情報に該当する事例(※)】の事例1に「Cookie等の端末識別子を通じて収集された、ある個人のウェブサイトの閲覧履歴」を挙げます。ただし事例の一覧の後に注があります。
(※)個人情報に該当する場合は、個人関連情報に該当しないことになる。例えば、一般的に、ある個人の位置情報それ自体のみでは個人情報には該当しないものではあるが、個人に関する位置情報が連続的に蓄積される等して特定の個人を識別することができる場合には、個人情報に該当し、個人関連情報には該当しないことになる。
事例に挙がっていることと、常に個人情報に当たらないことは別です。
GDPR 前文(30)は IP アドレスと cookie identifiers を名指しし、他の情報と組み合わさると may be used to create profiles of the natural persons and identify them と書きます。常に識別できるとは言っていません。「IP アドレスは個人情報か」を本回は断定しません。
「Cookie で集めた閲覧履歴は個人関連情報であって、個人情報ではないと通則編に書いてある」という説明の扱いとして適切なのはどれですか。
会員番号だけのアクセスログ
括弧書きと注(※4)が効く場面です。会員DBとの照合を通常業務でできるかが論点で、後から結合すれば分類が変わりえます(事例6)。
Cookie の識別子で集めた閲覧履歴
通則編は個人関連情報の事例1に挙げますが、注で、個人情報に当たる場合は個人関連情報に当たらないとします。
片方は個人情報の側、もう片方は個人関連情報の事例の側に書かれています。共通する判断の軸は何でしょうか。
ログの列ではなく、そのデータを他の何と結び付けられるかを両方で探してください。
ここから先は法務へ
(a) エンジニアが気づける信号: ログに利用者ごとの番号・Cookie の値が出ている。それを氏名へ引ける表が社内にある。後で結合する計画がある。
(b) 法務に持っていく材料: 出力項目の一覧、照合先の表の所在と引ける人、引く手順の有無、結合の予定、送り先。
(c) この回が言っていないこと: 特定のログが個人情報に当たるか。IP アドレスが個人情報か。GDPR が自社に適用されるか。2028-07-16 施行の改正後の扱い。
この章のまとめ
- 線は 「容易に照合して特定の個人に届くか」。その判断は 事業者の実態に即して個々に(※4)。後から照合されればその時点で個人情報(事例6)。
- 個人識別符号は 政令で定めるものに限られる。
- 当たらなくても 個人関連情報(第7項) が残る。Cookie の閲覧履歴は事例1だが、識別に届けば個人情報(注)。
- 「番号だけなら安全」も「番号があれば必ず個人情報」も原典に無い。
自分の現場で確かめる
読んだだけでは身につきません。手元の環境で実際に見てみてください。
理解度チェック
読んだ直後は「分かった」と感じやすいものです。実際に解いて確かめてください。
取得した時点では誰のものか分からなかった情報に、後から別の情報を付け加えた結果、特定の個人を識別できるようになりました。通則編はこれをどう扱っていますか。
用語集(2語)
- 個人識別符号
- 同 第2条第2項。号の要件に当たる符号のうち「政令で定めるもの」。旅券の番号、基礎年金番号、住民票コード等。
- 個人関連情報
- 同 第2条第7項。生存する個人に関する情報で、個人情報・仮名加工情報・匿名加工情報のどれでもないもの。
出典(一次ソース)
- 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)e-Gov 法令検索 2026-07-17 施行版(令和八年法律第六十二号による改正) ↗
- e-Gov 法令API v2 law_revisions 415AC0000000057(2026-09-24 取得) ↗
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」平成28年11月(令和8年6月一部改正)2-1・2-2・2-8 ↗
- Regulation (EU) 2016/679 (GDPR), OJ L 119, 4.5.2016, p. 1 — Article 4(1), Recitals 26 and 30 ↗