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義務はデータそのものではなく、それで何が起きたかに付いてきます。今回は「漏れたかもしれない」と知ったときに何が動き出すかを読みます。
まず結論
個人情報保護法の施行規則は、報告の期限を「事態を知った」時点から数えます。通則編は、事業者が法人なら「いずれかの部署が当該事態を知った時点を基準とする」と書き、規則の4類型には「発生したおそれがある事態」も入っています。
時計は確定ではなく、社内のどこかが知った時点を基準に動きます。GDPR 第33条も起点は「気づいた後」です。
本回は一次ソースが何を書いているかの紹介で、個別の事案の適否は判断しません。
個人情報保護委員会の通則編は、漏えい等の報告期限の起点となる「知った」時点を、法人の場合どう基準づけているでしょうか。
当てることが目的ではありません。外した予測ほど記憶に残るので、直感で選んでください。
時計を動かすのは「事態を知った」こと
個人情報保護法(2026-07-17 施行版)第26条第1項は、報告の義務を次のように定めます(ただし書は略)。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失、毀損その他の個人データの安全の確保に係る事態であって個人の権利利益を害するおそれが大きいものとして個人情報保護委員会規則で定めるものが生じたときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該事態が生じた旨を個人情報保護委員会に報告しなければならない。
どの事態か、いつまでにかは規則に預けられています。施行規則第7条は4つの類型を挙げます。
号 何が漏えい等したか 各号の末尾一 要配慮個人情報が含まれる個人データ 発生し、又は発生したおそれがある事態二 不正利用で財産的被害が生じるおそれのあるもの 発生し、又は発生したおそれがある事態三 不正の目的のおそれがある行為によるもの 発生し、又は発生したおそれがある事態四 本人の数が千人を超えるもの 発生し、又は発生したおそれがある事態
4つとも「おそれがある事態」を含みます。期限は第8条で、第1項は「前条各号に定める事態を知った後、速やかに」、第2項は「当該事態を知った日から三十日以内(当該事態が前条第三号に定めるものである場合にあっては、六十日以内)」。数え始めは発生した日ではなく、知った日です。
- ・規則は 2026-06-14 施行版(e-Gov で未施行版なし、2026-09-24 確認)
- ・報告対象に当たるかの判断は、この図の外(法務)にある
通則編が書く「誰が知ったら」と「おそれ」
起点について、通則編 3-5-3-3 はこう書きます。
報告期限の起算点となる「知った」時点については、個別の事案ごとに判断されるが、個人情報取扱事業者が法人である場合には、いずれかの部署が当該事態を知った時点を基準とする。「速やか」の日数の目安については、個別の事案によるものの、個人情報取扱事業者が当該事態を知った時点から概ね3~5日以内である。
「いずれかの部署」です。監視を見ていた開発チームが気づいた時点も入り得ます。
「おそれ」は 3-5-3-1 の注が説明します。
漏えい等が発生したおそれについては、その時点で判明している事実関係からして、漏えい等が疑われるものの漏えい等が生じた確証がない場合がこれに該当する。
同じ節は、サイバー攻撃で「おそれ」に該当し得る事例を挙げます。多くはエンジニアが最初に見るものです。
(ア) 不正アクセスでデータが窃取された痕跡(イ) 情報を窃取する振る舞いが判明しているマルウェアの感染(ウ) C&C サーバとして知られる IP アドレス・FQDN への通信(エ) 入力ページのファイルに、入力情報を窃取する改ざんの痕跡(オ) 公的機関・専門家等の第三者から、一定の根拠に基づく連絡
速報の「概ね3~5日以内」は、どこに書かれている値ですか。
分からないまま出す前提で組まれている
知った時点では分からないことが多く、通則編はそれを前提にしています。速報は「報告をしようとする時点において把握している内容を報告すれば足りる」。確報でも「合理的努力を尽くした上で、一部の事項が判明しておらず」全ての事項を報告できない場合は、把握している内容を出し「判明次第、報告を追完する」。
確報の数え方も書かれています。知った時点を1日目とし、土日・祝日も含め、30日目・60日目が土日・祝日・年末年始閉庁日(12月29日〜1月3日)なら翌日が期限です。
除外もあります。高度な暗号化等の措置を講じたものを除く括弧書きは第1号の中にあり、「以下この条及び次条第一項において同じ。」と続きます。通則編は「高度な暗号化その他の個人の権利利益を保護するために必要な措置」が講じられている場合は「報告を要しない」と説明します。除外に当たるかの判断は法務です。
GDPR 第33条では
GDPR 第33条第1項(2016年官報版)は次のとおりです。
In the case of a personal data breach, the controller shall without undue delay and, where feasible, not later than 72 hours after having become aware of it, notify the personal data breach to the supervisory authority competent in accordance with Article 55, unless the personal data breach is unlikely to result in a risk to the rights and freedoms of natural persons. Where the notification to the supervisory authority is not made within 72 hours, it shall be accompanied by reasons for the delay.
起点は after having become aware of it、ここは日本と似た形です。72時間には where feasible が付き、過ぎたら遅延の理由を添える構造です。「72時間を過ぎたら違法」とは書いていません。 第2項は処理者から管理者への通知を定めます。
GDPR 第33条第1項の72時間について、原文の構造に合う説明はどれですか。
日本(個情法・施行規則・通則編)
4類型はおそれがある事態を含みます。3〜5日は通則編の目安です。
起点 知った時点(法人はいずれかの部署)速報 速やかに(目安 概ね3〜5日)確報 30日以内・第3号は60日以内除外 高度な暗号化等の措置
EU(GDPR 第33条)
起点は気づいた後です。可能なら72時間以内とし、過ぎたら遅延理由を添えます。
起点 having become aware of it期限 without undue delaywhere feasible, 72 hours除外 unlikely to result in a risk
期限の数字は違います。2つに共通して、エンジニアの行動を決めている要素はどれでしょうか。
時計が「いつ」動き出すかに注目してください。
ここから先は法務へ
(a) エンジニアが気づける信号: 通則編(※4)の事例(窃取の痕跡、マルウェア感染、C&C サーバへの通信、入力ページの改ざん、外部からの根拠ある連絡)。どれも「該当し得る」例です。
(b) 法務に持っていく材料: 気づいた時刻と、誰が気づいたか。何を見て気づいたか(ログ・アラートの実物)。影響し得るデータの種類と件数の上限、暗号化の有無。分かっていないことの一覧。
(c) この回が言っていないこと: 個別の事案が報告対象か、暗号化で除外されるか、GDPR が適用されるか、本人への通知(第26条第2項。2028-07-16 施行の改正でただし書が変わる)の要否。今後の規則改正も確かめていません。
この章のまとめ
- 期限は知った時点から数える。通則編は法人ならいずれかの部署が知った時点を基準とする。
- 規則第7条の4類型は、いずれもおそれがある事態を含む。確証が無くても対象になり得る。
- 速報は規則上「速やかに」。概ね3〜5日は通則編の目安。確報は30日、第3号は60日。
- GDPR 第33条の起点も気づいた後。72時間は where feasible 付きで、改正提案がある。
自分の現場で確かめる
読んだだけでは身につきません。手元の環境で実際に見てみてください。
理解度チェック
読んだ直後は「分かった」と感じやすいものです。実際に解いて確かめてください。
「漏えいが確定するまでは、報告対象の事態には当たらない」という理解を、規則と通則編はどう扱っていますか。
用語集(2語)
- 報告対象事態
- 法第26条第1項の報告が必要になる事態。施行規則第7条が4類型(要配慮個人情報、財産的被害のおそれ、不正の目的のおそれ、本人の数が千人超)を定め、各号とも「おそれがある事態」を含む。
- 速報・確報
- 規則第8条第1項(知った後、速やかに)と第2項(知った日から30日以内、第3号は60日以内)の報告を通則編がこう呼ぶ。速報は把握している内容で足りる。
出典(一次ソース)
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov 法令検索。2026-07-17 施行版、2026-09-24 確認) ↗
- 個人情報の保護に関する法律施行規則(e-Gov 法令検索。2026-06-14 施行、令和8年個人情報保護委員会規則第2号による改正版) ↗
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」平成28年11月(令和8年6月一部改正)3-5-3 ↗
- Regulation (EU) 2016/679 (GDPR), OJ L 119/1, Article 33 ↗
- Council of the EU, ST 15698/25 — Digital Omnibus proposal COM(2025) 837 final(第33条改正案を含む。提案段階) ↗
- European Parliament, Legislative Train — Digital package(2026-09-24 確認。Status Tabled、情報は 2026-08-01 更新) ↗