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← コードの外の約束 — 個人情報・ライセンス・生成物の権利
レッスン 10 / 10·約 9 分·第23期 コードの外の約束

生成物の権利も侵害も、AI ではなく人を通して判断される

リクエストがアプリケーションに届くまで
  1. ブラウザURL入力
  2. DNS名前→IP
  3. ルータ経路選択
  4. ロードバランサ振り分け
  5. Nginx受け口
  6. アプリ処理今ここ
  7. DB保存

この期は、義務がデータやコードそのものではなく、それで何をしたかに付いてくることを見てきました。最終回は、AI が出したものを人が使う場面です。

まず結論

文化審議会著作権分科会法制度小委員会の「AI と著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)は、AI は著作者になり得ないとし、生成物が著作物か・侵害かを、人の行為を入口に考えます。侵害では開発した事業者が問われる場合にも触れます。

本回は一次ソースが何を書いているかの紹介で、個別の事案の適否は判断しません。最後に、出荷前に法務へ渡す材料を列挙します。

? 読む前に予測

文化庁の「考え方」は、AI 生成物が著作物に当たると判断された場合、その著作者を誰だとしていますか。

当てることが目的ではありません。外した予測ほど記憶に残るので、直感で選んでください。

抽象原理

著作者は「創作する者」で、AI はそこに入らない

著作権法第2条第1項第2号は著作者を「著作物を創作する者をいう。」と定義します(e-Gov、2026-06-24 施行版。2029-06-23 施行予定版も同文)。

AIは法的な人格を有しないことから、この「創作する者」には該当し得ない。(p.39)

前提の章はこう置きます。

これに伴う行為の責任はAIを道具として用いる人に帰属するということを前提としている。(p.4)

問いの主語は「AI が作ったか」ではなく、使った人が何をしたかに移ります。

「考え方」が AI 生成物を見る入口
AI 生成物AI は法的な人格を持たない(p.39)
2つの問いに分かれる
著作物に当たるか創作的寄与の積み重ね
既存の著作物を侵害するか類似性と依拠性
どちらも人の行為を通して見る
AI を利用して創作した人著作者になりうる
利用した人・開発した事業者問われる場合がある
  • ・「考え方」は拘束力を持たない整理(表紙)
  • ・開発事業者は p.34 の留意。「使った人だけ」ではない
具体実物

指示の長さでは決まらない

「考え方」は著作物性を「個別具体的な事例に応じて判断される」とし、「創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。」(pp.39–40)と書きます。そのうえで例を並べます。

「考え方」p.40 の記述を並べた表(文末はすべて「と考えられる」)表
人がしたこと 創作的寄与の判断への影響
創作的表現を具体的に示す詳細な指示 評価される可能性を高める
長大だがアイデアにとどまる指示 影響しない
試行回数が多いこと自体 影響しない
確認し指示を修正しながらの試行 著作物性が認められることも
単なる選択行為自体 影響しない
創作的表現といえる加筆・修正 その部分は通常認められる

強調した3行が「影響しない」側です。**長い指示も、試行回数も、単なる選択行為自体も、寄与にならない。**最終行の加筆・修正は、原文が「もっとも、それ以外の部分についての著作物性には影響しないと考えられる。」と続けます。手を入れた部分だけの話です。

「AI 生成物に著作権は無い」も「プロンプトを書けば著作物」も、表の片側だけの言い方です。

✓ ここまでの確認

「AI 生成物には著作権が無い」という言い方を、「考え方」の記述と比べるとどうなりますか。

抽象原理

侵害の側も、人が AI を使わない場合と同じ要件で見る

p.32 は生成・利用段階の侵害を「従前の人間がAIを使わずに行う創作活動の際の著作権侵害の要件と同様に考える必要がある」とし、既存の判例の考え方として「既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされている」と書きます。

AI を挟んでも要件は変わらず、変わるのは依拠性の見方です。

具体実物

利用者が知っていた場合と、知らなかった場合

「考え方」pp.33–35 の依拠性の場面(要約)表
場面 依拠性 誰が問われうるか
利用者が既存作品を認識して生成させた 認められる AI 利用者
認識していないが AI が学習していた 通常は推認される AI 利用者
(同上・p.34 の留意) 開発した事業者も
認識しておらず AI も学習していない 認められない 侵害は成立しないと考えられる

「認識していない」行の逐語は「通常、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害になりうると考えられる」(p.34)。同じ頁は続けて、学習した表現が出力されない状態が技術的に担保されている等の事情からそう法的に評価できる場合には、依拠性がないと判断される場合もあり得るとします。

そして最後の行です。

当該生成AIを開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。(p.34)

題の「人を通して」は**使った人だけ、の意味ではありません。**入口は利用行為で、その先で開発した事業者も問われうる形です。

✓ ここまでの確認

利用者が既存の作品を知らなかったが、その AI がその作品を学習しており、似た出力が出た場合について、「考え方」は何と書いていますか。

⇄ 2つを見比べる
具体例 A

権利の側: この出力は著作物か

入口は、使った人が何をしたかです。指示の長さや試行回数、単なる選択行為自体は寄与になりません。

見る材料表
材料 根拠
指示の中身と具体性 p.40 の①
修正しながらの試行 p.40 の②
人が手を入れた部分 p.40(加筆・修正)
具体例 B

侵害の側: この出力は既存作品を侵すか

入口は類似性と依拠性です。利用者の認識と AI の学習の有無で依拠性の見方が分かれます。

見る材料表
材料 根拠
出力と既存作品の類似 p.32
利用者が知っていたか p.33 の①
AI が学習していたか p.34 の②と留意

権利の問いと侵害の問いは向きが逆です。集める材料の共通点は何でしょうか。

表の「材料」の列に、AI の性能や種類が出てくるかを見てください。

ここから先は法務へ

(a) エンジニアが気づける信号: 指示に既存のコードを貼った。出力が見覚えのあるコードに似ている。他人の著作権表示が出てきた。「AI 生成物だから自由」という説明が付いてきた。

(b) 法務に持っていく材料: まとめの表に列挙する記録そのもの。第15条(職務上作成する著作物)の扱いは法務へ。

(c) この回が言っていないこと: 著作物か、似ているか、侵害か、権利が誰に帰属するかは判断していません。AI が書いたコードの著作者が会社になるとも言っていません。「考え方」の (2)キ の本文と、公表後の改訂の有無は確かめていません。

この章のまとめ

  • 著作者は「著作物を創作する者」。AI は法的な人格を持たず該当し得ない(p.39)。
  • 著作物性は創作的寄与の積み重ねで個別に判断すると考えられる。加筆・修正はその部分が通常認められる。
  • 侵害は AI を使わない場合と同じ類似性と依拠性。AI が学習していれば依拠性は通常推認され、開発した事業者が問われる場合もある(p.34)。

この期の芯に戻ります。**義務はデータやコードそのものではなく、それで何をしたか(残した・渡した・学習させた・出荷した)に付いてくる。**生成物も、AI が出した事実ではなく人がどう作らせ・直し・使ったかで見られます。出荷前にできるのは、判断ではなく列挙です。

AI が出したコードを出荷する前に列挙すること(法務へ渡す材料。可否の判断欄は無い)表
列挙すること 何をしたかの軸
どの指示で作らせたか。既存の作品やコードを示したか 作らせた
人が加筆・修正した箇所(差分で示す) 直した
出力に既存の著作権表示・ライセンス文が無いか 取り込んだ
追加された依存と、その license 欄の値 取り込んだ
コピーを渡す形で出荷するか(配布・ブラウザへの JS) 渡した
ログや保存先に、個人に関する情報が入る変更か 残した
入力や出力を学習に回す設定があるか 学習させた

自分の現場で確かめる

読んだだけでは身につきません。手元の環境で実際に見てみてください。

理解度チェック

読んだ直後は「分かった」と感じやすいものです。実際に解いて確かめてください。

問題 1 / 3正解: 0

「考え方」が、創作的寄与の判断に影響しないと考えられるとして挙げているのはどれですか。

用語集(2語)
著作物性
著作権法第2条第1項第1号の「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」に当たるかどうか。
類似性と依拠性
「考え方」p.32 が挙げる侵害の2要素。似ていることと、既存の著作物に基づいたこと。