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義務はデータそのものではなく、それで何をしたかに付いてきます。今回は「学習させた」「検索用に整えた」という行為の目的で、著作権法の扱いが分かれるところを読みます。
まず結論
著作権法第30条の4は、著作物に表現された思想又は感情の「享受」を目的としない利用を、必要と認められる限度で認め、但書で例外を置きます。文化審議会著作権分科会法制度小委員会がまとめた「AI と著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)は、AI 学習を含む情報解析はこれに当たると考えられる一方、目的のうちひとつでも享受が含まれれば要件を欠く、と整理しています。
その「考え方」自身が、法的な拘束力を有するものではないと断っています。本回は一次ソースが何を書いているかの紹介で、個別の事案の適否は判断しません。
1つの複製に、享受しない目的と享受する目的が併存する場合を、「考え方」はどう整理しているでしょうか。
当てることが目的ではありません。外した予測ほど記憶に残るので、直感で選んでください。
条文は、行為の目的で線を引いている
学習に使ってよいかを、データの種類で答えたくなります。著作権法第30条の4は、見出しからして目的で線を引いています(e-Gov、2026-06-24 施行版)。
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
柱書の部品です。
部品 条文の文言目的 当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合限度 その必要と認められる限度において方法 いずれの方法によるかを問わず但書 著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない
方法は問わず、目的と限度と但書で絞る、という作りです。第2号は「情報解析(…)の用に供する場合」を挙げます。
- ・目的と但書の判断は法的評価で、この図はどこで分かれるかだけを示す
情報解析のための学習
「考え方」はまず、学習をこの条文に当てはめます。
そのため、AI学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第30条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。(p.19)
量についても、p.31 は大量であることをもって「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる、と書きます。「学習は全部違法」は、この整理と合いません。
一方で同じ p.19 は、目的が複数ある場合を扱います。
この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる。
p.20 は享受目的が併存すると評価される例として、「意図的に、学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習」を挙げます。「学習は全部合法」も、この整理と合いません。
学習を行う者が、できあがった生成 AI の出力を観賞して楽しむつもりでいます。「考え方」はこれを第30条の4との関係でどう書いていますか。
目的は、データではなく行為ごとに見る
同じデータでも、どの行為を何のためにしたかで条文が変わります。
回答の生成に付随する利用を扱うのが第47条の5です。第1項は、電子計算機による情報解析を行い「及びその結果を提供すること。」(第2号)などに付随する利用を、「軽微なものに限る」として認めます。第2項はその準備のための複製等を扱い、どちらにも但書があります。
RAG 用のデータベースを作る
「考え方」は RAG を「検索拡張生成(RAG)その他の、生成AIによって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成する手法」(p.21)とします。データが著作物を含まないものであれば「著作権法上の問題は生じない」(p.21)としたうえで、含む場合を段に分けます(p.22)。
段 整理DB 作成(出力が目的でない) 非享受目的の利用行為として第30条の4が適用され得るDB 作成(出力が目的) 非享受目的の利用行為とはいえず、第30条の4は適用されない回答の生成 第47条の5第1項第1号又は第2号の適用があり得る生成で軽微利用を超える 同項は適用されず、原則として許諾が要るDB 作成(準備として) 同条第2項の準備行為として権利制限の適用を受け得る
最後の段の逐語です。
RAG等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為として、権利制限規定の適用を受けることが考えられる。
分かれ目は、DB を作る複製が元の表現を出力させるためかどうかです。「DB 作成は第30条の4」とも「第30条の4の外」とも、1つには畳めません。
「ベクトル DB を作るのは情報解析だから、RAG は生成まで含めて第30条の4で足りる」という説明の扱いとして、「考え方」に沿うのはどれですか。
情報解析のための学習
情報解析の用に供する場合は非享受に該当すると考えられる。ただし元の表現を出させる追加的な学習のように享受目的が併存すれば外れ、但書もある。
RAG 用のデータベース作成
DB 作成は、出力を目的としないなら第30条の4が適用され得、目的とするなら適用されないと考えられる。生成時の利用は第47条の5第1項で見る、と整理されている。
同じ文書群を、学習に使う場合と RAG の検索対象にする場合。条文の扱いが分かれる点はどこでしょうか。
「その複製は、何を出力させるために行うのか」を両方で問うてみてください。
ここから先は法務へ
(a) エンジニアが気づける信号: 特定の作品の表現を出力させたい学習の要望。RAG の回答が元の文書を長く返す仕様。アクセス制限を避けるクローラ。「〜条により合法」と断定するコメント。
(b) 法務に持っていく材料: データの出所と取得方法、アクセス制限への対応、各処理(学習・DB 作成・生成)の目的、回答に出る元の文書の量と形。
(c) この回が言っていないこと: 個別の学習や RAG が適法かどうか。但書に当たるかどうか。第47条の5の「政令で定める基準」の中身。「考え方」に公表後の改訂や後継文書があるか(2026-09 時点で確かめていない)。日本以外の法。チェックリスト(文化庁著作権課)も、方策を全て実施すれば「法的責任を何ら問われないといったことを意味するものではありません」と書きます。
この章のまとめ
- 第30条の4は、方法を問わず、目的・限度・但書で線を引く。
- 「考え方」(令和6年3月15日)は、情報解析の用に供する場合は非享受に該当すると考えられ、ひとつでも享受目的が含まれれば要件を欠くと整理する。
- 享受目的は学習用データについて見る。学習者が生成物を楽しむつもりかどうかではない(脚注21)。
- RAG の DB 作成は、出力を目的としないなら第30条の4が適用され得、目的とするなら適用されない、と整理される。生成時は第47条の5第1項、準備は同条第2項。
- 「考え方」は法的な拘束力を有するものではないと自ら書く。
自分の現場で確かめる
読んだだけでは身につきません。手元の環境で実際に見てみてください。
理解度チェック
読んだ直後は「分かった」と感じやすいものです。実際に解いて確かめてください。
「情報解析の用に供するなら、第30条の4で自由に利用できる」という説明に、条文の柱書から欠けているものはどれですか。
用語集(2語)
- 享受
- 第30条の4の語。条文は思想又は感情を「自ら享受し又は他人に享受させること」を目的としない利用を扱う。
- 軽微利用
- 第47条の5第1項の語。利用される部分の割合・量・表示の精度などに照らし軽微なものに限った利用。